東京大学
先端電力エネルギー・環境技術教育研究センター
Center for Advanced Power & Environmental Technology (APET)

ホーム

APETの概要

APETの組織

メンバー・協力教員

谷口研究室の紹介

池田研究室の紹介

イブニングセミナー

イベント・講演会

イベント・講演会

企業見学会

学生海外交流支援

E&Eニュースレター

報道・メディア

アクセスとリンク
 パワーフロンティア寄附講座の研究内容
パワーフロンティア寄附講座
特任上席研究員  池田 久利

「アークプラズマとスイッチング現象の解明に向けて」
 先進国における電力システム設備は,1950年代以降の急速な経済成長時に新設されたものが多く,その結果,最近では多くは30年を超えるものとなっています。この設備の寿命を延長することや,合理的な更新をするために,優れた技術を開発することが求められています。また,中国や開発途上国での電力需要は急激に増大しており,今後とも途上国の電力インフラ整備に投資が続けられていくと予想されます。より快適な生活を実現し,しかも,地球環境を保護するために,環境負荷を低減した高効率の電力システムが求められています。

 安定した電力供給の要となるのは,電力システムを事故から守る電力機器システムです。数万アンペアという巨大な事故電流を遮断する際の,アークプラズマとスイッチング現象の解明が,現在から将来にわたる電気エネルギーの安定供給を、さらには高度情報化社会を支える基盤となる研究の一つといえます。

 アークプラズマとスイッチング現象は,プラズマに関係する高度な計測や解析手法にとどまらず,ナノ材料技術などの適用による性能の向上や,MEMSなどによる機械的・電気的状態の診断技術にまでおよぶ,広範な技術分野を対象とします。また,この機器システムを中心にした,電力供給システムの総合された分野を対象にしています。

 このような背景のもと,基礎から応用までの幅広い分野で,高電圧大電力機器に関連する諸現象の解明と,優れた解決策の実現に取り組んでいきます。

■アークプラズマの計測
 アークプラズマは100年以上に渡って研究者の興味を引き付けてきました。ディジタル解析技術の進歩で,プラズマ現象の解析が可能になってきました。アークプラズマは天気と同じように,多くの不確定要素を持っていますので,ディジタル解析で定量的に予測するまでには至っていません。電流遮断は数万アンペアに達するアークプラズマを制御する技術です。構造,材料,あるいは,電気回路を巧みに用いることによって,優れた性能を出す研究を進めています。この研究は大きな電源設備を必要としますので、製造メーカと共同で研究を進めます。また、プラズマ計測には特殊な光学的計測技術が必要ですので、この技術を有する大学と共同で研究を進めます。遮断装置の構築から、アークプラズマ計測、また、解析までの幅広い研究を行います。

■電力系統のスイッチング現象の解明
 電力系統のスイッチング現象は,主にディジタル解析によって,現象の解明が進められています。複雑な電力システムの現象をディジタルモデルで完全に模擬することは不可能で,単純化したモデルが用いられています。電力システムの中には非線形特性を持つ現象がいろいろあり,これらの多くは線形近似されています。より高度な電力システムを実現するためには,複雑な物理現象を正確に模擬するディジタルモデルの研究が必須です。この研究は,変貌を続ける電力システムの安定運転に大きく貢献しています。 また,世界の電気規格であるIEC規格で開発したモデルが標準的に採用される活動を行なっています。

  
 トムソン散乱光学測定                   変圧器のディジタルモデル

■MEMSによる診断技術の開発
 MEMS(Micro Electro-Mechanical System)は半導体シリコン素子の中に,マイクロサイズの機械と電子回路を組み合わせた装置です。MEMS加速度センサは自動車の加速度計測に幅広く使われています。たとえば,加速度センサがエアーバックを始動します。このようなMEMSを電力機器の診断に用いる研究を進めます。電力システムでは,自動車と違って,高電圧や大電流による強い電磁環境下で安定して動作する必要があります。電力システムの特徴から効果的な診断方法を研究する必要があります。電力機器の機械的なモデルを作って,MEMS加速度センサの特性を調査する研究を進めてきました。電力機器では,加速度だけではなく,圧力,密度,温度など,様々な物理的状態を監視していくことが行われています。MEMS適用によって画期的な状態監視手法の開発につなげていきたいと思っています。

■ナノ技術を応用した材料特性の向上に関する研究
 ナノ技術はいろいろな特徴を生かして,電力機器の性能向上に生かされようとしています。高分子材料ポリマーを使った高電圧絶縁材料の開発は,磁器碍子に置き換わる材料として近年注目を集めています。ポリマーの弱点をナノ技術で改善すれば,適用範囲が飛躍的に拡大します。表面をPE-CVD(Plasma Enhanced –Chemical Vapor Deposition)技術でナノサイズの厚さにコーテイングすることで,耐環境性を改善する技術や,老朽化したポリエチレンケーブルにナノサイズで高分子を注入して性能を再生する技術の開発を行います。この研究は国内外の化学研究所と合同で進めます。

■学生のみなさんへのメッセージ
 電力システムは多種多様な技術が複雑に組み合わされて機能しています。日本の電力システムは世界の標準と比べても飛び抜けて高い信頼性を持っています。これは,一つ一つの技術が高いレベルを維持し,しかも,相互に上手に組み合わさって機能しているので,実現されています。どの一つの技術を取ってみても,世界最高レベルにあると思います。中でも電流を遮断する機器システムは非常に難しい機器の一つです。世界の優れた研究者たちが,環境負荷低減や高信頼度の実現に向かって,日々新たな取り組みがなされています。皆さんも世界の研究者たちとこの研究で競ってみませんか?
 世界は今,1000kV級の電力システムの実現に取り組んでいます。次の開発はなんでしょうか?直流と交流のハイブリッド送電や,宇宙からの電力輸送など,夢は広がります。この研究に取り組むことで,電力システムの基本的な技術の方向性を知ることになります。将来の電力システムの夢を描いてみてはどうでしょうか!

    
MEMSセンサによる遮断器機械モデルでの実験              ポリマー碍子

教科書執筆中